ジョゼと虎と魚たち/田辺聖子

田辺聖子さんの本は初めて。このタイトルの映画を観たいと思って買った。短編集。全九編。
全編、どの話も読みやすくて、それぞれ毛色が違っていて面白かった。純粋な関東人の私には、会話が全て大阪弁(一部、京都の登場人物もいたけど)というのは、なんだか別世界のお話のようで、とても新鮮だった。海外の小説のような感じがしてしまう。いいなぁ。方言って、強みだと思う。そこに住まないと使えないから。会話はすべて大阪弁だけど、それ以外の説明や語りの部分はそうではないから、会話が際立っていて、会話でだらだらしないし、すっきりしていて、素敵。
収録作品は、「お茶が熱くてのめません」「うすうす知ってた」「恋の棺」「それだけのこと」「荷造りはもうすませて」「いけどられて」「ジョゼと虎と魚たち」「男たちはマフィンが嫌い」「雪の降るまで」、そして、解説・山田詠美
すべて、恋の話。もう終わった恋の話、先へ進まない恋の話。前に進んでいく話もあるけれど、私の気に入ったのは、もうそれ以上どうともならない恋の話、「恋の棺」や「いけどられて」。そして、「男たちはマフィンが嫌い」。「男たちはマフィンが嫌い」は、もうタイトルだけで気に入りに。どんな話なんだろう?とわくわくしてしまった。
「恋の棺」の宇禰の前夫の <オレとケンカしてぶすーっっとしてるのに、お袋に呼ばれると急に打ってかわってニコニコして、ハーイ、なんて顔をふり向ける、あれ見て気持わるかった、オマエ二重人格やな、思た>という台詞。あたりまえじゃない、と思う。すべての女は程度の差こそあれ、二重人格でしょう。でも男はそんなこと知らないから、いつまでたっても「女はわからない」なんてぼやくんでしょう。なんて、そんなことを思った。
私は難しいことはよくわからないから、「ジョゼと虎と魚たち」はよくわからなかった。幸福と死は同義…。わたしがそれを理解するのはいつになることやら。解説も、ひとつの物語として、とても好き。でも、やっぱり私にはよくわからなくて、何度も何度も読み返さないとなぁ、と思う。読み返すのは苦ではないんだけれども。