恋愛中毒/山本文緒

狂気の物語。
話自体は淡々としていて、ただ、ただ、水無月の視点でのみ語られる。(冒頭以外は)。何が起こるってわけでもないのに、何かが微妙にズレていく。でも、水無月の視点で描かれているために、何が起こっているのか見えてこない。もう何度目かに読むこの小説は、私にとって本当に恐ろしい、まるでホラーかミステリーのようだ。でも読まずにいられない。読んでいる物語の登場人物に心を重ねてしまう私の悪い癖は、この物語を読む場合にも例外ではなくて、この物語は水無月の独白という形をとっている以上、私は水無月になって読み進めているわけで、読んでいるうちにどんどん私は「私の何が悪かったの?」と思ってしまう。だからいつも、この小説の読後は気分が悪くなってしまう。
私は水無月になっていないだろうか。
私はこれから水無月になってしまうんじゃないか。
彼の私への情も、こんなふうに徐々にすり減ってしまうんじゃないか。
私は水無月から自分へ戻った時に、そんな「もしも」に恐怖する。私は水無月にならずに、まっとうな、現代的な『恋愛』をできるだろうか。